1972年大阪生まれ。1993年に調理師専門学校卒業後、佐賀短期大学(現・西九州大学短期大学部)に進学、1997年、佐賀大学理工学部卒業後、船井総合研究所などを経て、2001年にタニタ入社。2005年、タニタアメリカinc.取締役、2008年より、タニタ代表取締役社長。
体脂肪計付きヘルスメーター、体組成計など、健康分野の計量計測機器で広く知られるタニタ。
独自の発想から生まれた商品は、日常の中で健康への気づきを促すという貴重な役割を果たしている。
同社の社長である谷田千里さんは、一人ひとりが「はかる」ことを通じて、
日本全体を健康にしたいと考えている。
日本人なら誰もが知っている「ヘルスメーター」という言葉。実は商品と共にこの名を世に送り出したのがタニタだ。大正12年に谷田五八士氏ら兄弟が創業した同社は、ライターやトースターなども製造していたが、2代目の谷田大輔氏の頃から、ヘルスメーターをはじめとする健康分野の計量計測機器に特化、世界初の体内脂肪計などの独自商品を開発し、トップブランドとなる。弱冠30代でその後を引き継いだのが谷田千里さんである。
「タニタの企業理念は、はかることを通じて人々の健康づくりに貢献することですが、私はそこに、収益を越えた社会的意義として、『日本を健康にしよう』が含まれていると考えています」。
谷田さんは、はかることが未病(東洋医学で、病気の一歩手前の状態を意味する)の察知につながり、その段階でケアすることが、社会全体の健康につながると考える。「はかることは、健康への通過点を明確な数字として確認すること。それによって気づき、大事に至る前に健康を取り戻すことができます」。
こうした発想から、タニタは独創的な商品を続々と生み出している。例えば、身に着けるだけで1日の総消費カロリーがわかる、コンパクトな活動量計「カロリズム」。「健康のためには、カロリーの摂取量と消費量の両方を知ることが大切。常に携帯し、1日の総消費カロリー量を知ることで健康への気づきにつなげることができます」。
マット型の睡眠計「スリープスキャン」は、呼吸、脈拍、体動の3要素から睡眠状態を計測、グラフ化し、タニタ独自の睡眠点数として表示できる。「鬱病が社会問題となるほど増えていますが、睡眠の度合いをはかることで、精神疾患のスクリーニングがある程度可能になると思います」。
未病が恐ろしいのは、自覚症状に乏しいことである。糖尿病もその一例だ。しかも人間ドックや健康診断では見つかりにくい。そこでタニタが開発したのが携帯型デジタル尿糖計である。「この尿糖計なら普段、手軽に血糖値と相関のある尿糖値をチェックできます。気づいたら、すぐに健康を取り戻す手だてを打ってほしいのです」。
こうした商品群は、タニタが世界市場を勝ち抜くうえでも、欠かせない力となっている。
谷田さんは創業者から数えて3代目に当る。しかし、家業を継ぐ気はまったくなかったという。「10代の頃は、父と何かとぶつかり、好きな道で早く独立しようと、高校を出て調理師学校に進みました」。ところが、ひどい椎間板ヘルニアを患い、手術で治癒したものの、医者にこの仕事は無理だと宣告される。
職業を考え直し、次は栄養士をめざした。まず佐賀短大の食物栄養学科へ。さらに短大の先生に勧められ、佐賀大学理工学部を受けて合格、化学科を卒業した。
「結果的に、調理、栄養学、化学と、現在の仕事に活きる勉強をすることになりました。まるで定められた運命だったかのように感じることがあります」。
卒業後、コンサルティング会社に勤務し、多くの企業経営者に接する内、反発していた父への視線は変化していった。「父を家庭人ではなく、経営者として見るようになって理解できるようになったのだと思います。ニーズのない時代に体脂肪計を世に出し、成功させた父の偉大さもわかるようになりました」。
谷田さんは経営者としては若い世代に属するだけに、ウェブの活用にも積極的だ。同社が90年代半ばにホームページ開設を検討していた頃、谷田さんは、父が家に持ち帰ったサイト構成図を見て、つながりがおかしい、と自分で手を入れたこともあった。
「ウェブサイトは大きな投資をしなくてもアイデア1つで効果を出せますから、特に中小企業にとっては貴重な資産です。ウェブをいかに上手に使うかはこれからの経営の1つの鍵だと思います」。
タニタがco.jpのドメインでホームページを開設したのは1996年1月。当時としては非常に早い段階での取り組みと言える。
「co.jpのサイトはウェブ上の正面玄関とも言えるものです。まず何よりも、訪れたお客様の信頼を裏切らない、真面目で落ち着いた雰囲気を大切にしています」。アクセス数は、書籍「体脂肪計タニタの社員食堂」の大ヒットもあって2011年に急増、6月までの月平均ページビューは330万、月平均ユーザ数は26万人に達した。このサイトを中核に、カロリズムなどの商品ページ、糖尿病予防を促す「尿糖じぶんチェック」、会員制の健康支援サービス「からだカルテ」、健康情報を発信する「ベストウェイト健康講座」など、多数の関連サイトが用意されている。
「日本を健康にしよう、という理念にとってもウェブは大きな力になっています。例えば携帯型デジタル尿糖計は高感度医療機器に分類され、販路が限られます。しかし日本では現在、糖尿病が強く疑われる人、可能性が否定できない人が合わせて2000万人以上におよび、その予防に貢献できれば、人々の健康はもちろん医療費の削減にもつながるでしょう。商品認知を図る上で、信頼のおけるウェブでの情報提供は非常に重要です」。
また商品以外の幅広い健康情報の発信も、人々の健康への関心に応え、タニタのイメージアップに貢献している。10年前から続く「ベストウェイト健康講座」では広告を入れないメルマガを社員が手づくりで制作、好評を得ている。
谷田さんは情報発信の新しい潮流にも早くから挑戦すべきだと考えている。「ウェブに限りませんが、失敗も含めて、経験を積まないと知識やノウハウは得られません。当社では、動画配信やSNSにも積極的に取り組んでいます」。
信頼を伝えるco.jpのサイトに、個別のサイト、新しいチャレンジが加わり、タニタのブランド力と情報発信力を高め、経営を側面支援していると言えるだろう。